脳梗塞のリハビリをする上で、知っておきたい後遺症の種類と判定方法
脳梗塞とは血管が細くなったり、血管に血栓(血のかたまり)が詰まったりして、脳に酸素や栄養が送られなくなるために、脳の細胞が障害を受ける病気です。 脳梗塞は詰まる血管の太さやその詰まり方によって3つのタイプに分けられます。症状やその程度は障害を受けた脳の場所と範囲によって異なります。
脳梗塞の後遺症の中で、麻痺症状は見た目にも分かりやすいですが、高次機能障害といわれる、日常生活の中で気づきにくい後遺症もあります。
例えば、駅から家までの道のりといった、歩きなれた道であっても迷ったり、うまく言葉が出てこないといったよく観察していないとわかりにくい障害があります。
この記事では、脳梗塞のリハビリをする際に、どういった後遺症があるか、そして後遺症を見抜くための診断方法をご紹介していきます。
脳梗塞の後遺症には下記のようなものがあります。
Contents
- 1 脳梗塞の種類
- 2 脳梗塞の後遺症の重症度判定
- 2.0.1 Japan Coma Scale(JCS)
- 2.0.2 Glasgow Coma Scale(GCS)
- 2.0.3 modified NIH Stroke Scale(NIHSS)
- 2.0.4 脳卒中情動障害スケール(JSS-E)
- 2.0.5 脳卒中うつスケール(JSS-D)
- 2.0.6 脳卒中感情障害(うつ・情動障害)スケール同時評価表(JSS-DE)
- 2.0.7 脳卒中運動機能障害重症度スケール(JSS-M)
- 2.0.8 日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書
- 2.0.9 Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)
- 2.0.10 Brunnstrom stage
- 2.0.11 Barthel Index
脳梗塞の種類
筋肉の麻痺による後遺症
脳梗塞の後遺症で最も一般的に知られているのが、筋肉の麻痺による後遺症で、
- 片麻痺
- 嚥下障害
に分類されます。
片麻痺(手、足)
脳梗塞が脳の右側に起こった場合は、体の左半身の顔や手、足に麻痺が起こります。
逆に脳梗塞が脳の左側に起こった場合は、体の右半身の顔や手、足に麻痺が起こります。
麻痺の種類としては、力が入らない、しびれる、感覚がないなどの症状がでます。
嚥下障害
食べ物を飲みこむ喉の筋肉に麻痺が起こり、飲み込む力が弱くなります。そのため、飲み物や食べ物を飲みこむ嚥下がうまくできず、場合によってはのどに詰まらせてしまうこともあります。
高次機能障害
脳にダメージを受けることで、言語・記憶・思考・行為・学習・注意・判断といった知的な活動や精神的な活動に起こる障害をまとめて高次機能障害と呼んでいます。
片麻痺や嚥下障害は、見た目で判別できる障害ですが、高次機能障害は見た目や外見ではわかりにくいため、患者さん自身が自覚していなかったり、周囲の人からも理解されにくいものがほとんどです。
下記で紹介する内容を確認して、こういった障害が出ていないかのチェックをしてください。
言語障害
言語障害には、大きく分けて二種類あります。脳の言語をつかさどる部分の機能が損傷を受けて起こる「失語症(しつごしょう)」と口のまわりや口の中が麻痺してうまく話すことができない「構音障害(こうおんしょうがい)」があります。
記憶障害
記憶障害は、おおむね下記の3種類に分かれます。
- 過去に記憶したことを忘れてしまう(記憶保持の障害)
- 数分前など直前のこと・過去のことが思い出せなくなる(再生力の障害)
- 新しいことを覚えられなくなる(記銘力の障害)
どれか一つだけ障害が起こる場合もありますし、3種類全てが起こる場合もあります。
行為障害
麻痺やしびれといった運動機能の障害がないにも関わらず、自分が行いたい動作や行動が正確にできない状態です。この状態を「失行(しっこう)」といいます。
日常生活に密接に関係がある失行は、「運動失行」と「着衣失行」があります。
運動失行
日常生活で行う簡単な動きがうまくできなくなります。いくつかの道具を使う動作、例えば、
「歯磨き粉を歯ブラシにつけて歯を磨く。」
などの行為ができなくなります。
着衣失行
服を着たり脱いだりすることに関する障害です。
「服の袖に手を通して、ボタンを留める」
といった動作ができなかったり、
「服を着ても前後を逆にしてしまう」
また、
「ボタンを外して、服を脱ぐ」
といった脱衣がうまくできなくなります。
認知障害
感覚(見る、聞く、さわる)の障害が無いのに、すでに知っているはずの物が何かわからなくなる状態です。認識ができない状態のため、失認(しつにん)といわれます。
日常生活に関わりが深い失認には、
- 物体失認
- 聴覚失認
- 半側空間無視(はんそくくうかんむし)
- 他誌的障害
の4種類があります。
物体失認
視認失認の一種で、例えば、バスといったよく知っているはずのものでも、見ただけでは何なのかわからなくなってしまう状態です。音を聞かせたり、実際に触らせることで認識することができます。
聴覚失認
電話やインターフォンの音など、よく知っているはずの音が何なのかわからない状態です。
半側空間無視(はんそくくうかんむし)
自分の空間の右側、あるいは左側のどちらか半分が認識できなくなる状態です。
認識ができなくなると、壁や机といったものがあることに気づくことができないため、見えていてもぶつかってしまいます。
一番困ることは、本人が右側、あるいは左側半分を認識できないという感覚や自覚を持っていないことです。
脳の右側の障害により、左半側空間無視が起こる傾向が多いようです。
他誌的障害
この障害は二種類あります。良く知っている道順(駅から家までの道順など)をたどれなかったり、迷うといった「他誌的見当識障害(道順障害)」と、地図を見て場所の位置を示したり、地理的な位置関係(家は、〇〇スーパーの道を入って右側、など)を説明したり示すことができない「地理的記憶障害」があります。
注意障害
注意障害とは、注意力・集中力が極端にかけてしまった状態です。
- 集中して物事を行えない、行ってもミスが多い。
- ぼんやりした状態のため、考えをまとめることやつながりのある会話ができない。
- 何かを我慢することができなくなる
このような反応をします。
脳の右半球が、広い範囲で損傷することによって、現れる障害といわれています。
気分障害
脳の中で、気分や感情を司っている部分だった場合、うつ病傾向になってしまうことが少なくないようです。
また、脳梗塞後は治療もそうですが、後遺症によっては満足に体が動かせなくなります。
こういった生活環境のストレスや、脳自身の障害によって、脳梗塞患者の2-4割がうつ病を発症すると言われています。
脳梗塞の後遺症の重症度判定
脳梗塞の後遺症は、筋肉の麻痺や高次機能障害といった様々なものがあります。
そのため、後遺症の重症度を判定するにも、様々な方法があります。
ここでは、日本脳卒中学会でまとめられている、判定方法をご紹介します。
リンクを押すと、pdfファイルが閲覧できます(出展元:日本脳卒中学会)。
Japan Coma Scale(JCS)
意識障害のレベルを評価する指標です。日本で広く使用されています。
JCS判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/341.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
Glasgow Coma Scale(GCS)
JCSと少し似ていますが、目を開けるか、言葉を話せるか、体を動かせるかといった点に注目し、それぞれ1から6段階で評価しているものです。世界的に用いられています。
GCS判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/341.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
modified NIH Stroke Scale(NIHSS)
意識障害や身体の動かしづらさ(麻痺)などを総合的に評価している指標です。
NIHSS判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/342.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
脳卒中情動障害スケール(JSS-E)
脳卒中後には、情動障害と呼ばれる気分がはれなかったり、やる気が出ないといった部分の評価を行える指標です。
JSS-E判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/347.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
脳卒中うつスケール(JSS-D)
脳卒中後では、多くの人で脳卒中後うつと呼ばれるうつ症状が見られることがあります。その脳卒中後うつを評価できる指標です。
JSS-D判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/348_349.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
脳卒中感情障害(うつ・情動障害)スケール同時評価表(JSS-DE)
脳卒中情動障害スケールや脳卒中うつスケールを合わせた評価指標です。
JSS-DE判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/img/jss-de.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
脳卒中運動機能障害重症度スケール(JSS-M)
意識、言語、無視、視野欠損または半盲、眼球運動障害、瞳孔異常、顔面麻痺、足底反射、感覚系、運動系(手、腕、下肢)の12項目で全身状態を評価する指標です。
JSS-M判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/346.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書
障害の程度を「全く症候がないから死亡」の6段階で評価する指標です。
mRS判定シート(pdf形式)
http://www.jsts.gr.jp/guideline/350_351.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)
運動機能、筋の緊張、感覚機能、関節の可動域、疼痛、体幹機能、高次脳機能、麻痺していない側の機能について評価する指標です。
SIAS判定シート
http://www.jsts.gr.jp/guideline/350_351.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
Brunnstrom stage
上肢、手指、下肢の各部位について、麻痺の回復段階がどの程度であるかを評価する指標です。
Brunnstrom判定シート
http://www.jsts.gr.jp/guideline/352.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
Barthel Index
日常生活を送るために必要とされている食事や排泄、入浴などを行うために必要な介助量を評価する指標です。
判定シート
http://www.jsts.gr.jp/guideline/352.pdf
(日本脳卒中学会付録資料)
脳梗塞の後遺症の種類を理解した後は、リハビリについて学んでいきましょう。
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